お知らせ

当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。

広告

第19章:バカバカしい真相 フライング・コード~遺伝子の胎動~ 

事件から三日後、大分市内の大学病院。消毒液の匂いが漂い、モニターの電子音が静かに響く。重傷を負った由布厚生は個室で治療を受けていた。

複数の骨折と内臓損傷で、しばらくの入院が必要な状態だ。部屋の外には警官が無言で立ち、彼が逃亡しないよう見張っている。

「お名前は?」

受付で看護師が尋ねた。

「春日凪子です。由布厚生さんにインタビューの許可をいただいています」

凪子は記者証と面会許可証を提示した。許可証はGFOの西園寺の計らいで発行されたもので、由布が体調の許す限り、事件の真相を語ることを条件に面会が認められていた。

「どうぞ、308号室です」

看護師の案内で、凪子は由布の部屋へと向かう。ドアノブを握る手が一瞬止まり、後ろの清六と沙織も無言で顔を見合わせた。二人も真相を知りたいという強い希望があり、凪子のインタビューに同行することが許可されていた。

「緊張する…」

清六は小声で言い、無意識に拳を握りしめていた。沙織はそっとその手を包み、静かに微笑む。

「大丈夫よ。もう彼に力はないわ」

308号室のドアを開けると、ベッドに横たわる由布厚生の姿があった。一週間前までは威厳に満ちていた彼も、今は包帯と点滴に囲まれ、弱々しく見える。

だが、その目だけは、かつての鋭い光を失っていなかった。由布はベッドの上で身動きできず、包帯越しに手を握りしめていた。

「来たか」

由布は凪子を見つめた。病室にはモニターの電子音が静かに響き、消毒液の匂いが漂っている。

「春日凪子。君が『真相』を記事にするのか」

「はい」

凪子は録音機器を準備しながら答えた。

「世界は真実を知る権利があります」

由布の目が清六と沙織に移る。一瞬だけ驚いたように眉を上げる。

「FCT-1も来たのか。興味深い」

「僕の名前は天野清六です」

清六は由布をまっすぐに見つめ、静かながらも強い口調で言った。

「もうFCTなんて呼ばないでください」

由布は小さく苦笑し、咳き込んだ。

「失礼。習慣というものは中々抜けないものだな…天野君」

三人は椅子に座り、インタビューの準備を整えた。凪子はノートを広げ、録音機器の電源を入れる。病室には一瞬、静寂が流れる。

「では、お話を伺っていいですか?」

由布は静かに頷いた。

「構わん。もう隠すことはない」

「まず、『プロジェクト・ガストロノミックマター』の真の目的は何だったのでしょうか」

凪子の最初の質問に、由布はしばらく天井を見上げ、思い出を探るように静かに息を吐いた。

「私は大分の食文化を世界に広めたかっただけだ」

彼の声には、かつての熱意の残響があった。

「最初は本当に単純な思いだった。大分県の観光振興策の一環としてね」

「それがなぜ、人体実験にまで発展したのですか?」

凪子の問いに、由布は手を握りしめ、目を伏せて言葉を選ぶ。

「それは…」

短い間を置いて、由布は静かに続けた。

「私自身の野心が膨らんでいったからだろう。最初は単なる文化保存の手段だったものが、次第に政治的な道具になっていった」

彼は自分の過ちを認めるかのように、声を低くして続けた。目の奥には、誇りと後悔が複雑に浮かんでいた。

「ある時、FCT-0…宇佐美玲の作る料理を食べた政府高官が、異常なほど彼女の料理に執着し始めた。その時に私は気付いたんだ。『食』が持つ力にね」

「『催眠効果』についてお聞きしたいのですが」

凪子が本題に入った。清六も身を乗り出して聞き入った。これは彼自身の体に関わる重大な問題だった。

「『活性化された人間』が作る料理には、食べた人の意識を操作する効果があるとされていましたが、それは本当なのでしょうか?」

この質問に、予想外のことが起きた。由布が笑い出したのだ。最初は小さな笑いだったが、やがて大きな笑いになり、彼は痛みで顔をゆがめながらも笑い続けた。

「あ、痛い…」

彼は肋骨の骨折の痛みを堪えながら、ようやく笑いを収めた。

「すまない。それはね…実は大げさな表現だったんだよ」

「え?」

凪子だけでなく、清六も沙織も驚きの声を上げた。

「どういうことですか?」

「実際には、『活性化された人間』が作る料理は単に『異常に美味しい』だけだったんだ。プロの料理人が一生かけて到達するような極上の味を、彼らは本能的に再現できる。それだけのことさ」

「でも、僕が作った料理を食べた人は意識を失いました」

清六が食い入るように尋ねた。

「フライドチキン店で、それから料亭でも…」

「ああ、あれは…」

由布は少し居心地悪そうな表情を見せた。

「別府が君たちの料理に特殊な薬物を混ぜていたんだ。催眠作用のある物質をね。君が働いていた店にも彼の協力者がいて、食材に細工をしていた。本来の『活性化料理』にはそんな効果はない」

「何ですって?」

凪子は驚きのあまり、ペンを落としそうになった。

「でも…どうやって?」

 清六の声が震えた。

「調理場のスタッフや食材配達業者に指示を出していた。君たちが『活性化状態』で作った料理に特別な効果があると思わせるためだ」

 由布は苦々しい表情を浮かべた。

「別府はデータを捏造し、『料理遺伝子人間』の価値を誇張して政治家を説得していた。全てはプロジェクトの予算確保と、君たちを兵器として売り込むためだった」

誰かが小さく息を呑む音が聞こえ、病室の空気がぴんと張り詰めていた。

「では、『共鳴タンク』も…?」

「あれも大袈裟な演出だ」

由布は深いため息をつき、疲れたように言った。

「確かに料理の香りや味を増幅する効果はあったが、大分市全域に催眠効果を与えるなどというのは不可能だった。せいぜい会場内の人間が『とても美味しい』と感じる程度だろう」

「それなら…」

凪子の声が震えた。

「なぜそこまでの大規模な研究を?なぜ人体実験までして?」

由布は苦笑し、視線を窓の外に落とした。その表情には自嘲と後悔が入り混じっている。

「政治家というのは、単純なことを複雑に見せたがるものでね」

彼は静かに続けた。

「私は官僚時代、政治家たちが予算を獲得するために、いかに簡単なことを複雑で重要そうに見せるか、目の当たりにしてきた。『大分の食文化を守り広める』という単純な目的は、『遺伝子レベルの文化保存』『食による国家影響力の確保』などと言い換えれば、莫大な予算がつくんだ。別府はさらに、その予算を悪用して『催眠効果』という幻想を政治家に売り込んだ」

「嘘だ…」

清六の声はかすれていた。拳を握りしめ、視線を落とす。

「僕たちは…ただのマーケティングツールだったというんですか?」

「そうとも言える」

由布は清六を見つめ、その目にわずかに申し訳なさが浮かんだ。

「だが、君たちが作る料理は確かに素晴らしいものだった。食べた人は『また食べたい』と思う。それだけだ。洗脳でも催眠でもない。単に『もう一度あの味を味わいたい』と思わせるだけ」

「でも、別府はなぜそこまでしたの?」 沙織が鋭く尋ねた。

「彼は『料理遺伝子人間』を兵器として売り込みたかった」 由布の声に怒りが滲む。「催眠効果があると偽れば、軍事的価値が生まれる。それで予算を拡大し、自分の権力を強化しようとしたんだ」

部屋にはしばらく沈黙が落ちた。遠くで機械の電子音だけが響いていた。

「軍事的価値だ。政治家や軍関係者は『催眠効果のある料理』に目を付けた。別府は彼らに『人間兵器』として君たちを売り込んだ。料理で敵国要人を操れるとね」

「でも実際には…?」

 沙織が割り込む。

「実際には薬物混入のトリックだった」 

由布は舌打ちした。

「だが彼らは『遺伝子操作による生物兵器』という幻想に踊らされた。私も最初は『食文化保護』のつもりだったが…」

「バカバカしい…」

沙織が呟いた。彼女の目には怒りと涙が浮かんでいた。

誰もが言葉を失い、ただ由布の顔を見つめていた。夕暮れの光が病室の壁を静かに染めていた。

「それだけのために、清六くんたちの人生を奪ったんですか?」

「そう言われれば、その通りだ」

由布は肩をすくめようとしたが、痛みに顔をゆがめ、深く息を吐いた。

「プロジェクトが進むにつれ、別府の狂気が全てを歪めた。私は『食文化の継承』を望んでいたが、彼は『国家の武器』に変質させた。気づいた時には、もう止められなかった」

凪子はさらに質問を続けた。インタビューは一時間以上続き、由布は予想以上に率直に答えた。「食の平和利用」という理想が、「軍事転用」という悪夢に変わっていった過程が静かに明かされていった。

インタビューを終え、病室を出た三人は言葉少なだった。

エレベーターに乗り、病院を後にする道中、ようやく清六が口を開いた。

「なんだか…バカバカしいね」

彼の声には複雑な感情が混ざっていた。拳を握りしめ、視線を落とす。

「僕たちが恐れていたものは…ただの『美味しい料理』だった」

「それでも、あなたたちが被害者であることには変わりないわ」

凪子は真剣な表情で言った。沙織は唇を噛み、目に涙を浮かべていた。

「由布と別府は人体実験を行い、薬物で『催眠効果』を偽装した。それ自体が犯罪よ」

「うん…でも、なんだか肩の荷が下りた気がする」

清六は少し微笑んだ。

「僕たちは『世界を支配する兵器』じゃなかった。ただ『美味しい料理を作れる人間』だったんだ」

***

病院を出ると、玲と千尋、そして誠司と彩乃が待っていた。彼らも真相を知りたがっていたのだ。

「どうだった?」

玲が即座に尋ねた。

「信じられないことがわかったわ」

凪子は病院の外にあるカフェに皆を案内し、インタビューの内容を詳しく説明した。

「由布の告白によると、『催眠効果』は全て別府の仕組んだ偽物だった。調理場のスタッフに薬物を混入させ、軍関係者を騙して予算を引き出していたの」

部屋にはしばらく沈黙が落ちた。遠くで機械の電子音だけが響いていた。

「嘘でしょ?」

玲は手をテーブルの上で握りしめ、目を泳がせていた。

「私たちが恐れていたのは、そんな単純なことだったの?」

「そうみたいです」

凪子は録音した内容の一部を再生して聞かせた。

「『料理遺伝子人間』の真の能力は『極上の美味しさ』だけ。別府が『兵器』に見せるため、薬物とデータ捏造で演出していた」

カフェのBGMが静かに流れる中、皆が耳を傾けている。

「『活性化された人間』が作る料理には特別な『美味しさ』があるだけで、それ以上の効果はない。料亭での出来事は、別府がスタッフを使って薬物を混入させたせいだった」

「まあ…」

千尋は膝の上で手を組み、視線を落としながら小さく息を吐いた。彼女はまだ完全に回復しておらず、活性化の影響から解放されたばかりだった。

「私が作った料理で人を喜ばせることはできても、支配することはできなかったってこと?」

「そういうことです」

凪子は頷いた。

しばらく誰も言葉を発せず、カフェのBGMだけが静かに流れていた。

「由布の野心が、単純な事実を恐ろしいものに見せかけていた」

「それでも、私たちの自由は奪われていた」

玲の声には怒りがあった。手が小さく震えている。

「『活性化』状態で作った料理に薬物を混ぜられ、結果的に人を操る道具にされた。それが事実よ」

「ええ、そこは変わりません」

彩乃が穏やかな声で言った。

「別府が仕組んだ薬物投与は、明らかな犯罪です」

「でも、なんだか…拍子抜けだね」

清六は肩の力が抜け、深く息を吐いた。その笑いには解放感があった。

「僕たちが持つ力は、世界を変えるようなものじゃなかった。ただ人を喜ばせる料理を作れるだけ」

「それでも十分素晴らしいことじゃない」

沙織は清六の手をそっと握り、優しく微笑んだ。

「料理で人を幸せにする能力って、すごいことよ」

「確かにね」

清六は沙織を見つめ、自然と笑みがこぼれた。

「だからこそ、僕は『活性化回路』の除去手術を受けないことにしたんだ」

「え?」

皆が驚いた顔で清六を見た。清六は一度大きく息を吸い、

「この能力は僕の一部。薬物に汚されていない本当の力で、人を幸せにしたい」

と力強く宣言した。

「いつ決めたの?」

「さっき、由布の話を聞いて」

清六は真剣な表情で説明した。

「この能力は薬物に汚されていない。本来はただ人を幸せにするためのものだ。自分の意思で正しく使いたい」

玲はしばらく視線を落とし、ゆっくりと頷いた。

「私も同じ考えよ。別府の薬物とは関係ない、純粋な『美味しさ』を追求したい」

千尋は膝の上で手を組み、静かに言葉を紡いだ。

「私は…手術を受けるわ。薬物で汚された記憶が怖い。でも、自分の手で本当の料理を作りたい」

それぞれが自分の道を選ぶ。それこそが、彼らが勝ち取った自由だった。

「本当に…バカバカしい話だったね」

誠司は少し苦笑し、肩の力を抜いて深く息を吐いた。

「20年間の研究は、別府に『兵器』に歪められていた。でも本来は…」 

彼の目が清六の料理を見つめた。

「こんなに素晴らしいものを生み出すためだったんだ」

沙織は清六の手をそっと握り、優しく微笑んだ。

「でも、私は清六くんと出会えた。それだけでも、この事件には意味があったと思う」

清六の頬が少し赤くなり、自然と笑みがこぼれた。

「うん…僕も、沙織と出会えたことは感謝してる」

玲がからかうように言った。

「あら、いい雰囲気ね。『活性化』より強い力が働いているみたいね」

皆の肩から力が抜け、自然と笑い声がこぼれる。カフェの窓から差し込む午後の光が、薬物のない清らかな未来を照らしていた。

「さて、この真相をどう記事にしましょうか」

凪子がノートを見返しながら言った。

「『人体実験の真相は…滅茶苦茶に彩られた幻想だった』なんてタイトルでどう?」

「それいいね」

清六は笑った。

「由布さんの話を聞いて、なんだか肩の荷が下りた気がする。僕たちは兵器じゃない。薬物に依存しない、本当の料理人だったんだ」

「いいえ、それだけじゃないわ」

沙織は清六の手をそっと握り、優しく微笑んだ。

「あなたたちは特別な人たち。薬物に頼らず、純粋な腕前で人を幸せにする力を持っている」

その言葉に、清六も玲も千尋も静かに頷いた。肩の力が抜け、皆の表情が柔らかくなる。彼らの能力は、人工的な操作ではなく、努力と才能が生み出す真実のものだった。

「それじゃあ、『天ぷら屋みれい』に戻りましょうか」

玲が大きく伸びをして立ち上がった。

「本物の『活性化』料理を食べたい人、いる?薬物なしの、純粋に美味しいだけの天ぷらよ」

「ぜひ!」

全員が声を揃え、笑顔が広がった。

彼らはカフェを後にし、玲の店へと向かった。夕焼けが街をオレンジ色に染め、心地よい風が頬を撫でる。遠くで子どもたちの笑い声が響いていた。

「清六くん」

歩きながら、沙織が小声で言った。彼女は一瞬だけ清六を見上げ、照れくさそうに微笑む。

「私、あなたの料理、食べてみたいな」

「いいよ」

清六は微笑み、沙織の手をしっかりと握った。

「僕の『活性化』料理。でも、効果は『美味しい』だけだからね」

「それで十分よ」

沙織は彼の腕にそっと手を添えた。

「美味しい料理と、大切な人たち。人生に必要なのはそれだけかもしれないわ」

清六は頷き、沙織の手を取った。夕暮れの空の下、バカバカしい真相が明らかになった今、彼らの前には新しい未来が広がっていた。

第20章:自分の道を選ぶ

 

カテゴリーが設定されていません。

おすすめゲーム

SHESAIDのイラスト

お兄ちゃんの命令は絶対!?

お兄ちゃんの命令は絶対!?

黄門様エクリプス道中

黄門様エクリプス道中

おすすめサービス

AmazonのオーディオブックAudible

Clip Studio Paint(クリップスタジオ)

キャラ&ホビー格安あみあみ

-