第12話 こいゆび、ひみつ 「実行(2)」

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第12話 こいゆび、ひみつ 「実行(2)」

二人とも服を脱ぎ終え、バスタオルを体に巻きつけたままゆっくりと振り返った。お互いの目が合った瞬間、二人は一瞬だけ動きを止めた。顔が熱くなる感覚が広がり、小さく息を呑む音だけが静かな更衣室に響いた。

無言のまま、二人は湯煙が立ち上る家族風呂へと向かった。

廊下には温泉特有の湿り気と硫黄の香りが漂い、足元のタイルから伝わるひんやりとした冷たさが二人の緊張感をさらに際立たせているようだった。琴音は小さな足音を立てながら慎重に湯船へ近づき、その縁にそっと手をかけた。その仕草にはどこかためらいと緊張が滲んでいる。

一方で陽太も同じように湯船へ近づき、その動作にはぎこちなさが見え隠れしていた。湯船から立ち上る湯煙は二人の視界をぼんやりと曇らせ、その柔らかな熱気は少しだけ緊張感を和らげているようだった。

しかし――胸の奥でざわつく感覚は消えず、言葉を交わす余裕などまだ二人にはなかった。

陽太がふと「クチュン」とくしゃみをした。その音は静寂を破り、温泉室内に響いた。琴音はその突然の音に少し驚き、胸の奥でざわつきが広がる感覚を覚えながら目を見開いた。

「あの…湯船に入る?」

琴音は小さな声で提案した。その声には隠しきれない緊張が滲んでいて、自分でも抑えきれない感情が言葉に乗っているようだった。陽太は無言で頷いた。二人はぎこちない動作で立ち上がり、それぞれバスタオルを外した。その瞬間、お互いの裸体が目に入り――二人とも息を呑んだ。

湯煙が立ち上る中、二人は急いで湯船へ足を入れて座った。隣り合ったものの正面を見ることはできず、横目でお互いの体を観察しようとしている様子だった。琴音は横目で陽太の肩や腕へと続く筋肉の輪郭をちらりと捉えた。その力強さに気づくたび、胸がバクバクする感覚を覚える。一方で陽太も横目で琴音の肩から首筋へと続く柔らかなラインに視線を向けたものの、それ以上見ることにはためらいがあった。

湯煙と熱気だけが二人を包み込み、その柔らかな温かさは緊張感を少しだけ和らげているようだった。しかし――胸元でざわつく感覚だけは消えることなく残り続けていた。

心臓の鼓動が強くなり、お互いの呼吸が少し荒くなっていることに気づいた。湯船に浸かった体は熱くなり、その熱さが湯によるものなのか、それとも胸の奥で広がるざわつきによるものなのか――二人にはその違いをはっきりと区別することはできなかった。

湯煙が立ち上る中、時間だけがゆっくりと流れているようだった。その静けさは二人だけの空間をさらに際立たせていた。ふとした拍子に琴音と陽太の肩が当たった。その瞬間、二人は同時に体を震わせた。その感覚は予想外すぎて、胸のドキドキがさらに速くなる。

目が合った瞬間、二人は一瞬だけ動きを止めた。顔から耳まで熱くなる感覚が広がり、その場から逃げ出したい気持ちと目を逸らさない気持ちが交錯していた。

「あ…ごめん。」

陽太は小さな声で呟いた。その声には隠しきれない照れくささが滲んでいた。

「ううん、大丈夫だよ。」

琴音も同じように小さな声で返した。その言葉には優しさと緊張感が入り混じっているようだった。琴音は小さく息を吸い込み、深呼吸してからゆっくりと口を開いた。

「そろそろ…上がろうか?」

その声には緊張と迷いが混ざっていて、自分でも抑えきれない感情が滲んでいるようだった。陽太は一瞬目線を泳がせながら、「ああ…」と小さく頷いた。

二人はぎこちない動作で湯船から立ち上がった。肌に触れる空気は湯気で湿っているものの、どこかひんやりとしていて、その温度差が二人の緊張感をさらに際立たせているようだった。

お互いの体を見ないように意識しているはずなのに、ふとした瞬間に視線が相手へ向かってしまう。そのたびに胸の奥でざわつきが広がり、顔がさらに熱くなる。

二人はバスタオルを体に巻きつけると、小さく息をついた。その仕草にはどこかぎこちなさがあり、お互いへの意識を隠しきれないままだった。

***

琴音と陽太は無言で更衣室へ向かった。部屋に入ると、二人は背中合わせで立ち、それぞれ服に手を伸ばした。

更衣室には衣擦れの微かな音だけが響き、その音が二人だけの静寂をさらに際立たせていた。琴音はブラウスのボタンを一つずつ留めながら、背後から伝わる陽太の気配に胸元でざわつきが広がる感覚を覚えた。一方で陽太も、Tシャツを頭からかぶる動作の間も背後にいる琴音の存在を意識せずにはいられなかった。その意識が心臓の鼓動を速くさせていた。

服を着終えた二人は、ためらいながらもゆっくりと振り返った。

その動作には緊張と不安が垣間見え、目が合った瞬間――胸の鼓動がさらに速くなる。

お互い小さく頷きながら、その視線には言葉では説明できない何か特別なものが宿っているようだった。二人は並んで更衣室から出て、静かに受付を通り過ぎた。受付の女性に軽く会釈すると、彼女も柔らかな笑顔で応じてくれた。その笑顔に、二人は胸の奥でじわりとした気恥ずかしさを感じた。それはまるで、自分たちだけが知る秘密を見透かされたような気持ちだった。

家族温泉の建物から外へ出ると、ひんやりとした夜風が二人の肌を優しく撫でた。夕暮れ時の橙色の光が温泉街の石畳に反射し、その穏やかな輝きが通り全体に静けさと温かみをもたらしている。

ようやくここで琴音と陽太は足を止めた。互いの存在を強く意識しながらも視線は定まらず、それでも時折チラリと目線が交差する。その瞬間、胸元でざわつきが広がる感覚に襲われながらも、お互い言葉にならない何かを感じ取っていた。

「それじゃ…気をつけてね。」

琴音は小さな声で切り出した。その声にはどこか名残惜しさが滲んでいる。

「ああ…うん。」

陽太も同じように小さく返事をした。その声には隠しきれない照れくささが混ざっていた。二人は「またね」という言葉を交わさなかった。

その一言が意味するもの――その重みをお互い感じ取っていたからこそ、口にはできなかった。しかし、その瞬間、二人の心には同じ疑問が浮かんでいた。

「また会うことがあるのだろうか――?」

***

温泉街の石畳を別々の方向へ歩き出す二人。その足音は静かな通りに響き、その距離が少しずつ広がっていった。琴音は足元へ落ちた視線をゆっくりと上げ、遠ざかっていく陽太の後ろ姿をじっと見つめた。胸元では複雑な思いが渦巻いている。それは今日という特別な時間が終わってしまった寂しさと、この出来事によって二人の関係が変わってしまったことへの不安だった。

「もう前みたいに自然に話せなくなっちゃうのかな――」

そんな思いが胸を締め付ける中で、琴音は自分でも答えのできない問いに向き合っていた。一方、陽太は石畳の道を歩きながら、時折後ろを振り返っていた。冷たい夜風が頬を撫でる中、遠ざかる琴音の姿が視界から消えそうになるたびに、胸の奥で何かを引き止めたい衝動が湧き上がる。

何か言葉をかけたくて口を開きかけるものの、その言葉は見つからず、結局飲み込んでしまった。ただ足音だけが静かな通りに響いている。この経験が、自分たちの関係にどんな変化をもたらすのか――それはまだ分からない。しかし確かなことが一つだけあった。

二人の間にはこれまでとは違う感覚――微妙な距離感と新しい意識――が生まれ始めている。

そして同時に、この変化が二人を遠ざけてしまうのではないかという不安も、心の奥底で静かに芽生え始めていた。

第13話に続く

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