第15章:活性化された千尋 フライング・コード~遺伝子の胎動~ 

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第15章:活性化された千尋 フライング・コード~遺伝子の胎動~ 

「天ぷら屋みれい」に戻った一行は、そこで待っていた誠司と玲に潜入作戦の報告をした。解除プログラムの設置に成功したこと、自分の「活性化コード」について学んだこと、そして由布厚生の声を聞いたことなど、詳細に説明した。

清六が報告を終えると、誠司はしばらく無言で考え込み、やがて安堵の息を吐いた。

「ということは、明日の作戦にはある程度の余裕があるということか」

誠司が安堵の表情を見せる。

「いいえ」

彩乃は唇を引き結び、低い声で首を振った。

「由布厚生は用心深い人物です。彼は必ず『共鳴タンク』の最終チェックをするでしょう。プログラムが仕込まれていることに気づく可能性は高いわ」

「そうか…」

誠司の表情が曇った。

「つまり、明日のフォーラムでの作戦は予定通り実行する必要がある」

「ええ。それに九重千尋を救出するという目的もあります」

凪子がテーブルに地図を広げた。

「国際食品フォーラムは大分市内の国際会議場で開催されます。各国の食品業界の重役や政治家が集まる大規模なイベントです」

「私はジャーナリストとして正式な取材許可を得ています」

凪子が言った。

「霧島さんもGFOの調査官として参加できます。問題は残りの人たちをどう入れるかです」

「私はスタッフとして潜入できるわ」

玲が言った。

「少し外見を変えれば、別府理事長でも気づかないでしょう」

「清六と沙織は?」

「凪子さんのアシスタントということで」

「誠司さんと彩乃さんは?」

「私はソラティア研究所の主任研究員として、正規の参加者よ」

彩乃が答えた。

「誠司は外部でバックアップを担当してもらいましょう」

深夜まで話し合いが続いた。テーブルの上にはコーヒーカップが並び、窓の外には静かな夜の闇が広がっていた。

フォーラムが始まる前に潜入し、九重千尋を見つけ出し、彼女を「活性化」状態から救出する。

同時に、由布厚生の「共鳴計画」が露見するように証拠を集める――

誰もが自分の役割を胸に刻み、明日への緊張と期待が入り混じる夜となった。

***

翌朝、窓の外には朝の光が差し込み、静かな空気に緊張が混じっていた。全員が早くから準備を始めていた。

凪子はジャーナリストらしい服装に身を包み、清六と沙織はシンプルなスーツでアシスタント姿に変身した。玲は髪型を変え、メガネをかけてスタッフに扮している。

「緊張する?」

沙織が清六に小声で尋ねた。手のひらをぎゅっと握り、唇をかすかに震わせている。

「ああ、でも…」

清六は拳を握りしめ、窓の外に視線を向けた。

「昨日までの自分よりは、ずっと強くなった気がする」

彼の言葉には自信があった。「活性化」をコントロールする方法を学び、自分自身のコードについても知ったことで、彼の中に新たな強さが生まれていた。

「私も…清六くんと一緒なら大丈夫」

沙織の言葉に、清六は微笑んだ。

霧島はGFOの制服に身を包み、威厳のある姿で現れた。

「出発の時間だ」

全員が円を作るように集まり、最後の確認を行った。

「任務は九重千尋の救出と、由布厚生の計画の阻止だ」

霧島が全員に言う。

「しかし、決して無理はするな。危険を感じたら即座に撤退しろ」

全員が静かに頷いた。

「では、行こう」

二台の車に分乗し、一行は大分市内へと向かった。

***

研究所よりも街に近い場所にある国際会議場。

ガラス張りの巨大な建物には、世界各国から集まった食品業界の関係者が集い、入口では複数の警備員が鋭い視線で来場者を見つめていた。

人々のざわめきとアナウンスの声が絶え間なく響いている。

「ここが…」

清六は会場の壮大さに圧倒され、思わず息を呑んだ。

「計画通り行動しましょう」

凪子が言った。

「私と清六、沙織は正面から入ります。玲さんはスタッフ入口から、彩乃さんは参加者入口から入ってください」

「霧島さんは?」

「私はGFOの代表として公式に参加する。会場内でフォローするが、あまり一緒に行動すると怪しまれる」

「わかりました」

清六は深呼吸し、覚悟を決めた。

「じゃあ、行こう」

凪子のリードで、まず清六と沙織が正面入口へと向かった。会場の自動ドアが開くと、冷房の効いた空気とともに、マイクのテスト音や参加者のざわめきが押し寄せてきた。

「春日凪子、食品ジャーナリストです。これは私のアシスタントです」

凪子が受付で取材許可証を提示する。警備員が三人をじろりと見つめ、IDを確認する手が止まった。清六は喉が渇くのを感じたが、顔は平静を保つ。

「…どうぞ」

ようやく通された三人は、展示ブースが並ぶ広大な会場に入った。照明のスポットライトがステージを照らし、どこからか調理デモの香りが漂っている。

「まずは九重千尋を探しましょう」

凪子が小声で言うと、沙織が展示案内を握りしめた。

「ソラティア研究所は…あそこ」

メインステージの隣に設けられたブースには、「未来の食技術―ソラティア研究所」の看板が掲げられていた。中央の透明な円筒形装置――「共鳴タンク」が不気味に光を反射している。

「昨夜仕込んだプログラムが機能しているか確認する必要があるわ」

彩乃がふと背後から囁いた。沙織が小さく息を呑む。

「千尋さんは?」

「まだ見つけていない。おそらく別室で準備中よ」

玲がスタッフ用のバッジをちらつかせながら近づいてきた。

「メインステージの裏に控室がある。九重千尋は完全に『活性化』された状態で待機中よ」

清六は「共鳴タンク」の機械音に耳を傾けた。あの研究所で聞いた油の跳ねる音が頭をよぎり、指先がかすかに震える。拳を握りしめ、彼は頷いた。

「行きましょう」

***

人混みに紛れながらメインステージに近づく。スタッフ通路のドアが軋む音が響いた瞬間、冷たい空気が流れ出し、清六の首筋に冷や汗が伝わる。

――誰かの足音が近づいてくる。

「あそこ」

玲が小さく指さした。「控室3」と書かれたドアがあった。

「彼女はその中にいるわ」

清六がドアに手をかけようとした瞬間、彩乃が彼の腕を掴んだ。

「待って。まず私が声をかけましょう」

彩乃は軽くノックし、ドアを開けた。

「九重さん、準備はいかがですか?」

室内には一人の若い女性が座っていた。

長い黒髪と切れ長の瞳を持つ美しい女性。料亭で見た時よりも整えられているが、表情はまるで仮面のように動かない。背筋はぴんと伸び、瞳はどこにも焦点を合わせていない。

「椎葉さん」

千尋の声は抑揚がなく、まるで機械のようだった。

「はい、準備は完了しています」

彩乃は部屋に入り、他のメンバーも続いた。ドアを閉めると、彩乃は真剣な表情になった。

「千尋さん、私たちはあなたを助けに来たのよ」

千尋は一瞬だけ首を傾け、静寂が部屋を満たした。

「助ける…意味が分かりません」

「あなたは『活性化』状態に支配されているの。本来のあなた自身を取り戻してほしいの」

千尋の動きは人工的で、不自然だった。

「本来の私…そのような概念は不要です。私は『料理遺伝子人間FCT-2』です。由布様と別府理事長に仕えるために存在しています」

その言葉を聞いた瞬間、清六は拳を握りしめ、胸の奥がきゅっと締め付けられるような痛みを感じた。かつての自分も、「活性化」状態ではこのように人間らしさを失っていたのだろうか。

「千尋」

玲が一歩前に出た。

「私はFCT-0、宇佐美玲よ。あなたと同じ『料理遺伝子人間』」

千尋の瞳がかすかに揺れ、指先がほんのわずかに震えた。

「FCT-0…記録にはあなたは脱走したとあります」

「そう。私は自分の意思で研究所を出たの」

玲は息を整え、ゆっくりと千尋に近づく。

「私たちは実験体ではなく、一人の人間よ。あなたにも選ぶ権利がある」

「選ぶ…権利」

千尋の声に、わずかに感情が滲んだ。

玲は千尋の手を包み込む。

「あなたの中にも、本来の自分がいるはず。『活性化』に抵抗する方法があるの。あなたの『核』となるものを思い出して」

千尋の目に、初めて感情らしきものが浮かんだ。混乱、疑問、そして…希望。

「私の…核」

彼女の声が震えた。

「私は…私は…」

その瞬間、ドアが乱暴に開く音が部屋に響き、冷たい空気が流れ込んだ。

高齢の男性――威厳に満ちた別府理事長が立っていた。

その後ろには黒いスーツの男たちが無言で控えている。

「やはり来たな…FCT-0」

別府理事長の声は低く、冷たかった。

「そして…椎葉彩乃。私の予想通りだ」

「別府理事長…」

彩乃は肩に力が入り、視線を逸らさずに睨みつける。

「何をするつもりです?」

「何をするつもり、だと?」

別府理事長は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「君たちこそ、私の大切な試作品を盗もうとしているではないか」

彼の鋭い眼差しが千尋に向けられた。

「FCT-2、覚醒コードA113」

その言葉が発せられた瞬間、千尋の瞳から光が消え、顔の筋肉がぴくりとも動かなくなった。

「はい、別府理事長」

彼女の声は完全に無機質だった。

「これが…完全活性化コード」

彩乃が恐怖に満ちた声で呟いた。

「身体機能の完全制御を可能にするコードよ…」

「正解だ、椎葉君」

別府理事長は満足げに頷き、ポケットから時計を取り出してちらりと見た。

「君が作った解除プログラムは、技術部のチームが既に発見し、除去した。『共鳴タンク』は完璧に機能する」

彼は千尋の肩に手を置き、慈しむように撫でる。

「そして、FCT-2は私の命令に従う。彼女は最も成功した実験体だ。意思の完全制御に成功している」

「やめろ!」

清六が一歩前に出た。掌に爪が食い込み、血の匂いがした。

「千尋さんは実験体じゃない。人間だ!」

「ほう…」

別府理事長は初めて清六をまともに見た。解剖台の標本を観察するような視線。

「君はFCT-1か。天野清六…我々の最初の完全成功例だったが、誠司に連れ出されてしまった」

黒服の男たちが一斉に銃口を上げる。別府理事長は手の平で制止した。

「興味深い。君も回収することにしよう」

「させません」

玲が滑るように清六の前に立つ。膝を緩め、千尋の動きを予測する体勢。

「もう、あなたたちの実験体になる者はいないわ」

別府理事長の目に怒りが浮かんだ。

「FCT-2、命令だ。彼らを排除せよ」

「了解しました」

千尋の声は感情のかけらもなかった。関節が不自然に滑らかに曲がり、床を踏む音すら消えている。瞳は焦点を失い、機械の駆動音のような呼吸が響く。

「千尋さん!目を覚まして!」

清六が叫ぶ。千尋の手刀が突如振り下ろされ、スーツの袖が裂ける。皮膚が割れ、じわりと血が滲む。

「覚醒せよ、千尋!」

玲が千尋の肘関節の動きを読み、間合いを詰める。

「あなたの中の核を思い出して!」

千尋の攻撃は加速する。玲は「活性化」状態で習得した体術を逆手に取り、辛うじて回避。後方へ跳んだ際、壁に背中を打ちつける。

「みんな下がって!」

玲が咳き込みながら叫ぶ。

「『活性化』状態の彼女は危険よ。普通の人間の反射神経をはるかに超えている」

「でも…」

清六は血の滲む腕を押さえ、千尋の無機質な瞳を見つめる。

「彼女を傷つけたくない」

「もちろんよ」

玲は壁から離れ、再び構える。

「でも、彼女の『核』を呼び覚ますしかないわ」

千尋の次の動きは清六を狙っていた。手刀が風を切り、清六の喉元を掠める。

「清六くん!」

沙織が叫んだ。彼の腕を必死に掴む手が震えている。

「大丈夫…かすり傷だよ」

清六は血を流す腕を押さえながら、無理に笑顔を作った。

彩乃が前に出る。

「千尋、あなたの『核』を思い出して。あなたは料理が好きだったはず。人を喜ばせる料理を作りたかったはず」

千尋の動きが一瞬止まる。瞳が揺れ、わずかな迷いが浮かぶ。

「私は…料理…」

「そうよ!」

彩乃は励ますように声を張った。

「あなたの『核』は『人を喜ばせたい』という気持ち。料理を通じて人を幸せにしたいという思い!」

「黙れ!」

別府理事長が机を叩き、怒鳴る。唇が歪み、声が鋭く響く。

「FCT-2、最終覚醒コードZ290!全機能を解放せよ!」

千尋の体が激しく震え、瞳孔が異様に拡大する。全身から熱風のような気配が立ち上り、部屋の空気が一瞬で重苦しく変わる。

「最終覚醒コード…」

彩乃が恐怖に震える声で呟く。

「彼女の全ての能力が解放される…自制がなくなる」

千尋は叫び声を上げた。人間らしい感情が込められた初めての声だったが、それは苦痛に満ちていた。

叫びが壁を震わせ、空気が振動する。

「逃げて!」

玲が叫ぶ。

千尋の動きが一変する。壁を蹴り、天井を駆け、床に着地する。空気が切り裂かれる音が響き、もはや人間とは思えない速さで部屋を飛び回る。

「こ、これが…『活性化』の最終段階」

彩乃が呟く。

「プロジェクトの究極目標…超人的能力の解放」

清六は汗ばむ手で拳を握りしめ、千尋の動きに目を奪われていた。彼女の中に人間の意識はもう残っていない。ただ本能と命令だけが彼女を動かしている。

「千尋さん…」

清六は一歩前に出る。喉が乾き、足が震える。

「やめて、清六くん!危険よ!」

沙織が彼の腕を掴み、必死に引き止めた。

「彼女はもう聞く耳を持っていない」

「いや…」

清六は沙織の手を優しく解き、前に進んだ。心臓が激しく打つのを感じながらも、一歩も引かなかった。

「千尋さんの中にも、『核』がある。僕にはそれを呼び覚ます責任がある」

彼の声は静かだが、強い決意に満ちていた。

「僕も『料理遺伝子人間』。彼女の気持ちが分かる」

千尋は壁に張り付くように停止し、清六を見下ろした。その瞳は無機質なままだ。

「FCT-1…排除します」

彼女は天井から清六めがけて飛び降りた。空気が切り裂かれる音が響く。

「千尋さん!」

清六は動かなかった。彼は真っ直ぐに千尋を見つめ、静かに言った。

「あなたは料理が好きだった。人を喜ばせるために料理をしていた」

千尋の体が空中で一瞬止まり、瞳が揺れる。呼吸が浅くなり、指先がかすかに震えた。

「だんご汁…あなたの得意料理。あなたのDNAに組み込まれた大分の伝統料理」

千尋の表情に、わずかな変化が現れる。

「私…だんご汁…」

「そう。あなたはそれを作るのが好きだった。食べた人が笑顔になるのを見るのが好きだった」

清六は一歩ずつ千尋に近づいた。背中に冷たい汗が流れる。

「あなたは実験体じゃない。一人の人間だ」

千尋の体が震え始め、瞳に涙が浮かぶ。

「人を…喜ばせたい…」

「そうよ!」

玲も加わった。

「それがあなたの『核』。それを強く意識して」

「やめろ!」

別府理事長は顔を真っ赤にして拳を握りしめ、机を激しく叩いた。

「FCT-2、彼らを排除せよ!これは命令だ!」

千尋の体が再び硬直した。目から感情が消え、再び機械的な表情に戻りかける。

だが、その瞬間――

「どうかあなた自身を取り戻して」

清六が彼女の前に立ち、両手を広げた。

「僕たちは仲間だ。同じ運命を背負った者同士」

千尋の中で、命令と記憶がせめぎ合う。部屋の空気が張り詰め、誰もが息を呑んだ。

千尋の目に、再び感情が浮かぶ。混乱、恐怖、そして…自分自身への気づき。

「私は…私は…」

千尋の声が震えた。

「だんご汁…作りたい…人を…喜ばせたい…」

「千尋!」

玲が叫ぶ。

千尋の体から異様な熱が抜け、肩が小刻みに震える。

彼女はゆっくりと床に膝をつき、震える手で顔を覆った。涙が指の隙間からこぼれ落ち、呼吸は乱れている。

「何をした…私は何をしていたの…」

***

千尋の声は人間らしさを取り戻していた。そこには感情があり、自我があった。

その瞬間、部屋に静寂が訪れる。全員が息を呑み、玲は胸に手を当てて安堵の涙を浮かべた。

「くそっ!」

別府理事長が机を叩き、視線を泳がせながら後ずさった。声がかすれ、手が小刻みに震えている。

「警備を呼べ!彼らを全員逮捕しろ!」

「それはできないな」

突然、ドアから霧島の声が響いた。彼はGFOの制服姿で、数人のエージェントと共に部屋に踏み込んでくる。

制服の袖に輝くバッジが、部屋の空気を一変させた。

「別府理事長、あなたを人体実験の容疑で逮捕する」

「何だと?」

「すべての証拠を押さえた」

霧島は冷静に言った。

「『料理遺伝子人間』の創造、そして彼らを使った人体実験と催眠効果の政治利用計画。すべてGFOが把握している」

「馬鹿な…」

別府理事長の顔から血の気が引き、手が震える。

「私には政界に強力なコネがある。簡単には…」

「由布厚生も逮捕されました」

霧島が言った。

「彼はソラティア研究所で身柄を確保された。もう誰もあなたを助けることはできない」

GFOのエージェントたちが別府理事長と彼の部下たちを取り囲んだ。彼らは抵抗する様子もなく、ただ呆然としていた。

静寂の中、清六は大きく息を吐き、膝が震えるのを感じた。

「成功したんですね…」

彼は安堵の表情を浮かべた。沙織は涙を浮かべて清六の肩に手を置いた。

「ああ」

霧島は頷いた。

「昨夜のプログラム設置は、GFOが研究所のデータにアクセスする口実でもあった。我々は由布と別府の証拠をすべて入手した」

清六は千尋の方に向き直った。千尋は肩を震わせ、床に座り込んでいた。玲はそっと背中を撫で、彩乃は静かな声で語りかけた。

「大丈夫?」

清六が優しく尋ねる。

千尋はゆっくりと顔を上げた。涙が頬を伝い、指先がかすかに震えている。目には人間らしい感情が戻っていた。

「私は…何をしていたの?」

「あなたは『活性化』状態に支配されていた」

玲が優しく説明した。

「でも、もう大丈夫。あなた自身を取り戻したわ」

「私は…」

千尋の声が震え、涙が溢れた。

「人を傷つけるつもりじゃなかった…ただ料理を…」

「わかっています」

彩乃が彼女の肩に手を置き、静かに微笑んだ。

「あなたは被害者です。責められるべきはあなたではなく、あなたを利用した人たち」

「ありがとう…」

千尋の声には確かな感謝の気持ちが込められていた。

その時、沙織が清六に近づき、そっと手を握った。

「怪我は?」

「大したことないよ」

清六は微笑み、沙織も安心したように息を吐いた。

「それより…成功したんだ。九重千尋さんを救出できた」

「うん…」

沙織も微笑み返す。

「清六くんのおかげよ」

外からは人々のざわめきや足音、アナウンスの声が絶え間なく響いていた。

***

フォーラムは中断され、参加者たちが混乱している様子が伝わってくる。

一同が顔を見合わせ、緊張と期待が入り混じった空気が流れる。

「これから記者会見を行う」

霧島が静かに告げた。

「GFOは『プロジェクト・ガストロノミックマター』の真実を公表し、被害者の保護を約束する」

「私たちは…どうなるの?」

清六が不安そうに尋ねた。

霧島は穏やかな声で答える。

「君たちはGFOの保護下に入る。あなたたちの権利は完全に守られる。そして、これからの人生は自分で決めることができる」

清六は胸の奥の緊張がほどけ、深く息を吐いた。玲、千尋、彩乃、そして沙織、凪子、霧島――すべての仲間の顔を一人一人見つめる。

「終わったんだね…」

玲は一瞬だけ遠くを見るような目をしてから、静かに言った。

「いいえ。これは終わりじゃなく、始まりよ。私たちが自分自身の人生を生きるための」

清六は頷いた。彼女の言葉は真実だった。これまでの旅は、自分自身を知り、受け入れるための旅だった。そしてこれからは、自分の意思で未来を切り開いていく時だ。

霧島がドアを開け、朝の光が差し込む。

「さあ、行こう。新しい人生が待っている」

清六は沙織の手をしっかりと握り、皆と共に部屋を出た。その先には、まだ見ぬ未来が広がっていた。

第16章:黒幕の野望

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